設計製図試験の秘策

年々し烈を極める1級建築士試験。学科試験については様々な問題や対策が考えられ、

研究されていますが、未だ謎が多いのが製図の試験。私も受験当時には情報の無さに苦労

させられました。これから受験される方への応援の意味も兼ねて、ここでは私が考える設計

製図試験の秘策を紹介しています。.................................

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1.「製図の試験」とは?

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 一級建築士の製図試験は、学科の試験終了後、毎年10月の中旬に行われています。学科の合格者には、

その年の製図の試験の受験資格と、その次の年の受験資格が与えられています。通常、学科の試験が7月の

下旬に行われていますので、学科から受験した人は2ヶ月半での受験準備となります。はっきり言ってこの試験

では、実務経験や知識の差は関係ありません。課題文の条件を忠実に守ったエスキスと、時間内にきれいな

図面が描けるかどうかだけが合格の基準になります。採点は減点方式で行われており、課題文の条件毎に、

失格〜−2点程度の減点が割り当てられていると考えられています。100点満点は存在しません。本番におい

ては、出来るだけ大きな減点をもらわないように、課題に忠実にエスキスすることが求められます。

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 気になる合格率は、毎年、学科試験が15%程度であるのに対し、製図試験は35%程度の合格者があり、

最終的には毎年10%程度の合格者があります。製図合格者のうち、約半数は「角番」といわれる、製図2年目

の人達ですので、製図1年目で合格するにはかなり狭き門であるということが言えます。最終的には、受験者が

4つのランクに振り分けられ、簡単に言うと、ランク1が合格、ランク2が減点による不合格、ランク3が重大な欠落

または未完成、ランク4が失格に区分されています。

参考:建築技術教育普及センター http://www.jaeic.or.jp/1k-data.htm

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 学科の試験同様、独学による受験も可能ですが、新傾向の問題が増えており、他の受験者のレベルも関係

することから、専門学校に通うことをお勧めします。私は、大手のN建学院にH15・H16の2年間通いましたが

H16にはそれだけでは対策が不十分であると感じ、インターネットの通信教育や問題集を買って、毎日問題を

こなしていました。通常、本番までに30枚製図を行えば合格レベルに達すると言われていますが、現在の試験

では、30枚での合格は難しいと思われます。エスキスと作図を30枚行ったと言うならば可能性はありますが、

初めて製図試験に取り組む人は、一式図をトレスするのが精一杯で、オリジナルエスキスまでは5〜6枚程度

トレスを行ってからでないと、課題文の条件を図面にどう反映していいか分からないのが普通です。ちなみに、

私は、H15には30枚の作図を行いましたが、不合格となりました。最初にトレスを5〜6枚行ったため、エスキ

スから一式図完成まですべてを行ったのは実質25枚程度でした。H15本試験では、エスキスがまとまらず、

見切り発車で製図に取り組みましたが、最終的には「引っかけ」に気づかず、ランク3の結果に終わりました。

H16には「角番」ということもあり、70枚、エスキスから一式図完成までを行いました。H16の本試験時は2年通

算で100枚程度の作図枚数で臨んだことになります。一般的に「角番」1年間の準備期間があるため、この

試験においては有利であると言えます。

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 本試験は5時間30分で行われますが、一般的に、エスキス2時間、作図3時間、チェック30分が理想の時間

配分であると言われています。ここで、初めて試験に取り組む人は、作図3時間というハードルをクリアしなけれ

ばいけないわけですが、私の場合、H15当初は、一式図完成に8時間かかってました。H16の本試験時まで

には、図面の精度によって、完成時間をコントロールすることができるようになっていましたが、最速で2時間10

分程で完成できるようになりました。この試験では、一式図を完成させるのが一番の目的ですから、最終的には

雑でも2時間程度で作図を終了できるようになる必要があると思います。作図スピードは通常テンプレートで描

いているものをフリーハンドで描けば、格段に向上します。スピードのコントロールは何をテンプレで描いて何を

フリーで描くかで行います。作図スピードの向上については、後程紹介します。

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2.近年の傾向と対策

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 平成12年頃から、製図の試験は年々難化の傾向にあり、それまでの問題とは本質的に内容が異なってきて

いると言われています。製図の試験は、「一式図を描ければ受かる」と言われた時代から、「何らかの斬新なポ

イントが問題に含まれている」時代へと変遷し、現在では「問題自体に矛盾を含んでいる」といわれています。

具体的には、課題文の通りにエスキスを行うと、何処かで矛盾が生じ、一方を優先させれば、一方がダメになる

という問題が近年出題されています。一方、毎年斬新なポイントが問題に含まれているという傾向は変わってお

らず、平成13年には「モール」、平成14年には「吹き抜けに樹木」、平成15年には「駐輪場」、平成16年には

「敷地内連絡通路」が出題されてました。その他、毎年、受験者の見落としがちな「引っかけ」が問題に含まれ

ており、これらは採点時には、欠格事項か、大きな減点が割り当てられているものが多いので、本番は、この

「引っかけ」に一番注意する必要があると考えられます。平成16年の試験では、建坪率が60%とかなり厳しい

値に設定されており、普通にエスキスを行えば、アウトになるという「引っかけ」が含まれていました。また、「レス

トラン」の条件が、「外部からもアプローチできる」といったものであったのに対し、「展示ギャラリー」の条件は

「外部からアプローチできる」といったもので、「レストラン」は解答例でも2階に計画されているのに対して、「展

示ギャラリー」を2階に計画した場合は、それだけで失格となるような大きな減点が与えられたようでした。

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 このように、近年の問題はより複雑・難解になっており、課題文の文章量も数年前と比べて増加の傾向にあり

ます。画一的な対はありませんが、一番の方策は「課題文の条件を読み落とさない努力」であると私は考え

ています。近年の試験は、作図中心だった試験からエスキス中心の試験に変わってきていると言えます。

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3.作図スピードの向上

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 次に、作図スピードの向上について、私が行っていた方法を紹介します。スピードの向上について一番大切

のは、毎日のトレーニングにおいて、自分の作図プロセス中、何が一番時間のかかるもので、何の時間を短

すれば全体的な時間の短縮につながるのかを追求することだと私は考えています。その意味で、私は一式

図完成までをいくつかのステップに区切り、それぞれのステップで毎回時間を計っていました。そのことによっ

て、今書いているステップがいつもより遅れているのか、進んでいるのか分かります。私は、その意味で本番で

も各ステップ毎の時間を計り、スピードのコントロールを行っていました。

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 具体的には、作図スタートから、氏名、計算式、柱までの記入をステップ1とし、次に、間取りの仮線(縦・

)記入までをステップ2、窓枠や出入り口の境界記入がステップ3、壁の実線記入までをステップ4

窓ガラスや戸の開き勝手の記入までステップ5、屋内の詳細記入〜屋内の完成までをステップ6、

屋外の完成までをステップ7、断面図の完成までをステップ8、その他、全体のチェックまでをステップ9...

と作図開始から、完成までを9ステップに分解することにより、時間の管理を行っていました。問題によって

時間のずれはありますが、そのうち、各ステップの時間が一定値に近づいてきますので、一番時間がかかっ

ているステップについて、重点的に時間の短縮の工夫を行えば、全体としてはどんどん時間が短縮され

いきます。ステップの区切り方は人それぞれ、やりやすいもので構わないと思いますが、私が各ステップ

行っていた、時間短縮の工夫を紹介します。

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 まず、柱型の記入は平行定規をロックして、テンプレートをスライドして一気に書き上げます。この際、鉛筆

の芯を出し過ぎると、ボキボキ折れてしまって逆に時間がかかるので、芯はほどよく出す訓練が必要です。

シャープペンの中には、1ノック分の長さを調節出来るものもありますので、そちらをおすすめします。

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 次に間取りの壁線を書く所に仮線を引っ張る訳ですが、ここでダブルラインを書いていると非常に時間がかか

ので、私は左端と、上端の1本だけ引いて、あとはカンで壁の実線を書いていました。壁厚を一定にするには

練習が必要ですが、これができるようになれば、スピードはかなり向上します。

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 壁の実線記入は、平行定規を上から下にスライドさせて書いて行きますが、ここで、同一線上で書き漏らし

が無いようにこころがけるのが、スピード向上のポイントだと考えます。定規をできるだけ動かさないように、最

小限の動作で作図するのが、最も速い方法です。

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 屋内の詳細については、ほとんどフリーハンドで書いていました。ただ、階段の段数だけは減点につながる

可能性があるので、定規を使って段数もきっちりそろえる練習が必要だと思います。レタリングについては、

文字をできるだけ部屋の中央に書く心がけが大切です。部屋の中央に書くと言うことだけで、最終的に出来上

がった図面の見栄え(密度)が違って見えます。レタリングを壁線の近くに書いた図面はアンバランスに見え、

全体的に疎なイメージがあります。逆に、レタリングの文字があまりに大きすぎるものでもバカっぽく見えてしま

います。

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 屋外についてはフリーハンドの量を増やすのが一番だと思いますが、ガレージの車の形など書いていると

時間がかかってしまうので、私はすべて斜線で表現していました。あと、タイル目地や、点々の模様などを

書くと、かなり図面が引き立ってくると思います。外構の点々を書くのに、私はシャープを2〜3本もって、腕を

けいれんさせて打してました。「そこまでするか〜!」と思う人もいるかもしれませんが、短時間で密度を高

く、さらに、他の受験にプレッシャーを与えるという意味もあり、こそくではあるが、有効な方法だったと考え

ます。

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 断面図については、あまり短縮するものが無いように思われますが、時間の無いときなどには、梁型はすべ

フリーハンドで書いていました。全体を通していえることですが、定規で書いても、フリーで書いてもあまり差

が出ないものについては、すべてフリーで書くようにしてました。

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 このように、ステップに分けてみると、それぞれに時間短縮の方策はあるわけで、自分で工夫したものが効

果を発揮して、実際に時間が短縮したときには喜びがありました。トータルで時間を管理していると、細かな工

夫も全体にうずもれてしまって、ホントに効果が出ているのかわからなくなりますが、ステップに区切ることによ

って、1分なり2分なりそのステップの所要時間が短縮するのが分かりますので、私はステップ分けによる作図

時間の管理をお勧めします。

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4.エスキスのプロセス化

 エスキスについてもいろいろな考え方があり、私もいろいろな本を読みましたが、右脳で考えろ!とか表で

整理しろ!とかわけのわからんものが多かったような気がします。ここでは私の考えるエスキスの方法を紹介

します。

 問題文は図面の完成時に要求されるポイントが羅列されています。私はこれをマーキングによってエスキ

ス時に注意する項目と、作図時に注意する項目に色分けしていました。具体的には、設計主旨や、天井高

隣接条件やEVの本数などはエスキス時にも重要な項目ですので、「赤」でマーキングすることとし、「トイレ

やバス」「家具の記入」「植栽の記入」などはエスキス時にはあまり関係なく、作図時に記入が要求されるもの

なので、「黄」にマーキングしていました。

 問題文は基本的に3回読み返すことにしていました。まず最初は手には何ももたずにぼーっと読みます。

次に、手に赤の蛍光ペンを持って、エスキス時に注意するポイントにマーキングしながら読み返します。

最後に、手に黄の蛍光ペンを持って、作図時に注意するポイントにマーキングしながら再び読み返します。

 上記の作業が終了したら、今度はポイントの抽出を行います。赤でマーキングしたものを中心に、設計

主旨、部屋の条件等をエスキス用紙の右端に書き出します。この際、建坪率、駐車場・駐輪場の台数、

床面積の範囲、EVの本数等も記入しておくと便利です。これらを書き終えたら、問題用紙の敷地図

使って、広場等を引いた建築可能範囲を割り出します。私は基本的に7m×7mスパンしか考えていません

でしたので、7×7で1Fに何コマ作図可能かを割り出します。また、これに伴い、床面積の最大・最小値と

各諸室の面積の合計値から、廊下や共用部分を含めた面積の増加率(係数)を割り出します。具体的には

設計条件の床面積最大値と最小値を諸室一覧表の下に書いてある合計面積で割ります。通常、1.4から

1.7ぐらいに割り当てられていることが多く、これが計画諸室とそれに廊下や共用部分を足した面積の割

り増し係数になります。諸室面積を1とすると、それを1.4倍したものが共用部分を足した面積になるわけ

です。

 これらの様々な条件をエスキス用紙の右端にまとめたら、つぎに部屋の割り振りを行います。(アプローチ

条件が複雑な問題は、この前に概念図などでアプローチを整理しても良いです。)設置階数が明らかなもの

から、先に割り当て、どの階でも良い部屋はあとで面積に応じて割り当てることにします。

 部屋の割り振りが終了したら、1/400程度でエスキスを行いますが、一つの階にばかりとらわれることなく、

3階なら3階で並列的に計画を行った方が修正作業が少なくて済みます。具体的には、階段やEV等の竪穴

は先に計画した方が無難と言えます。以下の作業については人それぞれですので、詳しくは書きませんが、

エスキスのチェックと併せて、最後におまじないのキーワードをエスキス用紙に書き込む用にしてました。

どらぴかちゅう、はしごはいい避難計画通路、ひさしフエ吹き、ちか、今日だけやめんなあくじ

スロットえんぎりすんなって。」...一見わけのわからん文章ですが、この文章中に、作図後のチェック

ポイントがだいたい含まれています。これらのキーワードを分解しますと、

 どら:ドライエリア/ぴ:PS/か:階段/ちゅう:駐車場/はし:断面図における柱型の記入/ご:ゴミ置き場

 いい:EV/避難:二方向避難/計:計算式/画:区画/通路:敷地内通路の幅/ひさし:/フエ:フェンス

 吹き:吹き抜け/ちか:地階、地階の階段/今日:境界線/だけ:ダクト、DS/や:屋根/めん:諸室の面積

 な:部屋の名称/あく:アクセス、入り口の記入/じ:自転車置き場/スロッ:スロープ/ト:戸の記入

 えん:煙突/ぎり:断面の切断位置/すん:寸法/な:名前の記入漏れ/て:手すりの記入

 といった具合で、覚えやすいキーワードでいいとは思いますが、よく書き忘れる項目について、エスキス

時にメモを書いておくのも、書き忘れを防ぐ上で有効になります。

エスキス例

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5.便利なアイテム

 ここでは、私が、エスキス・作図に欠かせないと思うアイテムを紹介しています。

6.ランク1のレベル

 受験生が製図を行ったものは、最終的に4つのランクに振り分けられますが、ひとくちにランク1と言っても、

その年々によってレベルが違います。一般的に問題が難しい場合には製図のレベルは下がります。逆に、問題

が易しい場合には製図のレベルは上がります。というのは、問題が易しい分、エスキスにかける時間が少なくて

済み、製図にかけられる時間が増えることによって、より緻密な図面を書く受験生が増えるということです。

 繰り返しますが、この試験で一番重要なことは、課題文の条件を漏らさないように製図を行うことです。もう少し

正確に言うならば、問題によって全ての条件を満たすことは不可能なこともありますので、より減点の少ない図面

を完成させるということです。減点が少ない計画であれば、フリーハンドや書く位置を間違えても合格はします。

下記に一式図の完成例を示します。手本にはなりませんが、合格図面の一般的なレベルではあると思います。

一式図作成例

7.本番での注意点

 本試験は緊張状態の中で様々な判断をしなければいけません。試験に際し、いろいろな注意点はあると

思いますが、私が一番重要だと思うのは当日の健康状態です。人によっては前日の夜中まで練習して試験

にのぞむ人もいると思いますが、私は1週間前くらいから本番のコンディションのための準備をしていました。

具体的には、夜は12時前には寝るようにし、食事では糖分を多くとっていました。試験中も、エスキスと製図の

間に飴をなめるようにし、糖分を補給していました。本試験は11時30分から5時までの間、ぶっ通しで作業

するのですから、脳内の糖分は必ず欠乏します。また、その時間帯が一日の体内サイクルの中でピーク時

に達していないと、よいエスキスや作図はできません。試験前日の睡眠も非常に重要ですが、あまり緊張し

すぎると寝付きが悪くなるので、前日はあまり緊張状態をつくらずにほどほどで寝たほうがいいと思います。

8.役立つページ・本

 ここでは試験関係で役に立つページや本を紹介しています。

ホームページ

(財)建築教育技術普及センター ・・・言わずと知れた試験制作もと。こまめにのぞいて情報を収集しましょう。

一級建築士試験・製図試験の学科製図.com ・・・製図の通信教育サイト。練習問題もダウンロード出来たりします。

仏男の一級建築士お勉強の記録 ・・・当サイトもコンセプトは同じ。みんなこんな心境でがんばっています。

建築士試験FORUM ・・・建築士受験にまつわる様々な情報があります。掲示板とかも参考になります。

大阪製図用品株式会社 ・・・ここから通販でいろいろ買いました。地方に住んでる方は役に立つかも。

セブンアンドワイ ・・・以前はイーエスブックスといいました。製図絡みの本が探せます。

書籍

1級建築士設計製図課題集(中部資格) 

・・・書籍の練習問題ではこれが一番本試験に近いです。他に私がやった本はすべて本試験より易しすぎでした。

エスキスアプローチ(学芸出版社)

・・・すべてこれから取りかかる人にはおすすめです。

一級建築士設計製図テクニック減点図面と合格図面(集文社)

・・・製図でやっちゃいけないNGポイントが分かります。

一級建築士に合格する設計製図テクニック(東洋書店)

・・・本試験の過去問が10年分載っています。他に法規のポイントなども参考になります。

9.最後に...

 以上、設計製図試験において私が重要だと思うポイントを解説してきましたが、1年目であれ、角番であれ、

試験に受かりたい気持ちは皆同じです。試験を受ける目的は人によって様々だと思いますが、楽をして受か

ったと言う人は私の知り合いにはいません。人それぞれに努力したり工夫したりして合格を勝ち取っています。

一番重要なのはありきたりですが気持ちです。最後はその人がどれだけ受かりたいかが勝負の分け目になる

と思います。このページを見てくれた皆さんも、精一杯に努力して、工夫して、自分なりの理論と技術を身に

つけて下さい。それでは、設計製図の試験、がんばりましょう。

powored by jo 2005